食欲にはホンモノとニセモノがあり、退治すべきはニセモノのほう。
というわけで、ニセモノを見分けるためにも、まずは食欲のメカニズムを知る必要があります。
食欲を感じるのは脳
お腹がすいた、お腹がいっぱいというように、私たちは食欲をおなかと関連づけて考えがちです。
確かに、食事をしてから時間がたつと胃が空っぽになるのを感じる、「何か食べたい」と思うもの。
でも、実は、そうした食欲を司るのは、お腹ではなく、脳なのです。
食欲をコントロールしているのは、正確に言うと、脳の視床中枢と満腹中枢の2つに分かれて、「お腹がすいた、何か食べたい」という欲求が起きるのは、前者の空腹中枢が働くため。
ものを長時間食べないでいると血糖値が下がるなど体に変化が起き、それを脳がキャッチして「食べなさい」と指令を出すのです。
反対に、「お腹いっぱい」と感じるのは、満腹中枢が働くせい。
食べたことによって血糖値が上昇すると、満腹中枢が「そろそろ食べるのをやめなさい」と指令を出すため、私たちは「お腹いっぱいだから箸をおこう」と思えるのです。
満腹を脳に伝えるサインがある
食欲を司っているのは脳ですが、脳が「食べなさい」「食べるのをやめなさい」と指令を出すのは、体の状態を察知したうえでのことです。
食事をとると、食べ物に含まれる糖質が消化吸収されて血液中に入り、血糖値がアップします。
これを察知すると、脳の満腹中枢が刺激され、「もうお腹いっぱい。
そろそろ食べるのをやめなさい」と私たちの体に指令を出すわけです。
つまり、満腹中枢が働くためのキーワードは血糖値。
これが上がらないことには、いくら食べでも、満腹中枢を覚えることができません。
満腹中枢は胃の壁が膨らんだり、食べ物を噛むことでも刺激されますが、やはりカギを握っているのは血糖値。
こんにゃくなど血糖値が上がらないものをたくさを食べても満足感が得られず、すぐにおなかがすくのはこのためなんです。
満腹が脳に伝わるメカニズム
①見る・嗅ぐ
血糖値が下がっていなくても、おいしそうな食べ物、好物を目の前にしてにおいを嗅ぐと、空腹中枢が刺激され、食欲が起こることがあります。
そして、その食べ物を口にすることに…。
②噛む
食べ物を細かく砕き、消化吸収されやすいようにするだけが噛むことの役割ではありません。
噛むめばた液が出ますが、それによっても満腹中枢は刺激されるのです。
③飲みこむ
食べ物を飲み込んだり、食道を通るときには物理的な刺激が加えられますが、この刺激も、満腹中枢への合図となり、最終的に満腹感へてつながっています。
④胃に入る
噛んで飲み込んだ食べ物が胃に入ると、当然のことながら胃が膨らみます。
すると、胃壁が刺激されますが、このことも、満腹中枢を刺激する一因になります。
⑤消化・吸収
満腹中枢が刺激されるためには、この過程がとても重要です。
食べたものが消化されて腸壁から吸収されなければ、満腹を感じることはできないというわけなのです。
⑥血糖値上昇
食べ物に含まれた糖質が消化吸収されて血液中に入ると血糖値が上昇。
これを感知することで満腹中枢が刺激され、私たちは「お腹いっぱいと」感じます。
食欲に関わるホルモンの働きって?
食欲に関与するホルモンの代表はレプチン。
食事からとった栄養が中性脂肪として脂肪細胞に取り込まれると、血液中に放出される物質です。
レプチンは「もう栄養は十分」と脳に伝えるホルモン。
これが満腹中枢に届くと、脳からは「食べるのをやめ」の指令が出ます。
ドーパミンやセロトニンも食欲に深く関係するホルモン。
ドーパミンは快楽を高める物質。
食べ物を選んだり、食事をすることが刺激となって分泌されますが、ドーパミンが分泌されるほど空腹中枢は刺激されて食欲がわいてきます。
これと反対に、興奮した脳を沈静化させ、満足感を与える物質がセロトニン。
食事をしてドーパミンが分泌されても、セロトニンの働きにより、適度なところで満足感を得られ、食べるのをやめることができるのです。
また、ヒスタミンも満腹中枢を刺激して満腹感を生み出すホルモンです。
こうしたホルモンが正常に分泌されていれば、食欲は正常です。
ところがホルモンバランスは、ストレスや不規則な生活などちょっとしたことで崩れがちです。
そうなると、ニセの食欲がおこってくるというわけです。
食欲を左右するホルモン
◇レプチン
体内の脂肪量を脳に伝達食事をして中性脂肪が脂肪細胞に取り込まれると、「もう栄養は十分」と脳に伝達。
結果、満腹中枢は、「食べるのをやめなさい」と体に発令。
◇セロトニン
満足感を与える物質
別名「しあわせホルモン」。
食事に満足するなど精神が安定した状態のときに分泌されます。
摂食中枢に働いて、空腹感を抑える働きもあります。
◇ヒスタミン
満腹感を生み出すのに関係
満腹中枢を刺激して満腹感を生み出します。
よく噛んで食べると満腹感を得やすいと言われるのは、噛むことでこの分泌が盛んになるため。
◇ドーパミン
食べたい欲求を増幅させる
「食べたい」という気持ちが起こったときに分泌。
脳を興奮させて快楽を高める物質で、過剰に分泌されるとドカ食いしてしまうこともあります。
ニセの食欲ってどうしておきる?
食欲中枢はデリケート。
ささいなことでその働きは乱れます。
その結果、生理的には空腹でないのに食欲がわいたり、食べても食べても満足感が得られなかったりすることがあります。
こんなニセの食欲を起こす原因としてまず挙げられるのは、ストレス。
ストレスで自律神経の働きが乱れると、この神経と近いところにある摂食中枢も影響を受け、正常な満腹感や空腹感が感じられなくなってしまうのです。
イライラするとヤケ食いドカ食いをするのは、この典型的なパターンです。
思い当たる人も多いのでは。
不規則な食事や早食い、ながら食いなど、問題ある食生活も摂食中枢の正常な働きを乱し、ニセの食欲を起こす原因です。
運動不足もそう。
本来なら食事をして血糖値が上がると「お腹いっぱい」と感じますが、運動不足が続くと、血糖値が上がっても、それを感知しにくくなり、いつまでも空腹中枢が刺激される…。
常に空腹状態というわけですね。
さらに、食欲は、視覚、聴覚、嗅覚など外からの刺激によっても起こります。
さっき食事をしたばかりなのに、おいしそうな食べ物を見たり、においをかいだりしると無性に食べたくなることがあります。
それがこのパターン。
大脳新皮質が発達した人間ならではの食欲で、これもまた、ニセの食欲と言うべきものです。